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A弁護士の法律コラム 1

更新日:2023年2月9日

  • 増え続ける家庭裁判所の取扱件数

近年、日本に滞在する外国人の数は年々増加しており(法務省出入国在留管理庁統計によると、2019年末時点での中長期在留者は約262万人、特別永住者は約31万人)、国際結婚の数や、日本に滞在する外国籍の家族の数も増えています。

そのため、日本の家庭裁判所でも、外国籍保有者が当事者となる件数も増加しています(「渉外家事事件」といいます)。

とりわけ東京家庭裁判所では、取扱件数が伸びており(東京弁護士会LIBRA Vol.19 No.11 2019より)、最近では、渉外家事事件を専門に取扱う係も設置されました(遺産分割等は除く)。

お国が違えば、法律・文化・プロセスも違います。弁護士の立場から、いくつか、渉外家事事件に関して基本的な法律情報をお知らせできればと思っております。今回は、私が携わった事例をご紹介します。

  • 実の父の名前が戸籍に書いてもらえない!?

依頼者(女性・日本国籍)は幼少期から国外にて生活し、現地で婚姻して生活しましたが、その後DV等を理由に前夫とは別居していました。

日本では、結婚も離婚も書類1枚で済んでしまいますが、そのような簡単に済んでしまう国は世界を見渡すと珍しく、合意だけでは済まされず、裁判所の介入なしでは離婚を認めていない国も多くあります[1]

依頼者が暮らしていた国も、裁判離婚しか認めていませんでした。依頼者は、逃げるように別居生活に至っており、前夫とは接点を持ちたくないからと、離婚裁判を起こしていませんでした。

その後、依頼者は、今のパートナー(外国籍)とともに日本に移住(依頼者にとっては帰国)し、日本で、パートナーとの間の子を出産しました。しかし、出産当時は前夫との婚姻関係が法律上継続していたので、生まれた子の出生届を出すには、父の欄に前夫の名前を書かざるを得ませんでした。実の親子関係はいまのパートナーとの間にありますし、実態と異なりますが、無戸籍状態を避けるため、泣く泣くそのように記載しました。

その後、やはり戸籍を正しくしたいということで、法律相談に至りました。

  • 裁判?調停?

本来、このようなケースで前夫との親子関係を否定するためには、「親子関係不存在確認の訴え」によらなければなりませんが、外国在住の人に対する裁判は、訴状を送達するのにも、大使館や領事館を通じてしなければなりません。送達に要する期間は国ごとに異なり、この国は、訴状送達だけで1年以上かかる見込みでした。判決にも送達が必要なため、裁判は全体で最低でも3年はかかると思われました。しかも、別に相談した弁護士(渉外法専門)からは、「高額の弁護士費用がかかる、確実に上手くいくか分からない」とも言われたそうです。

しかし、そのような時間やお金をかける余裕がないとのことでした。

この事案では、前夫が、たまたま近接したタイミングで裁判離婚を申出ており、離婚裁判が成立していました。この国では、当時からオンライン化が進んでおり、日本にいながらにして、裁判所のウェブサイトで確認できました。

こうした状況を前提として、私が採った方針は、「パートナーとの間の親子関係を立証して、戸籍を訂正する」というものでした。

役所は、任意には戸籍訂正に応じないので、裁判所の手続(調書や審判)が必要です。また、時間や接点の課題があるため、極力、前夫の手続関与を避けたいと考えました。

そこで、パートナーに対する認知調停を起こすことにしました。

原則として、戸籍上父の欄に記載があるのに、別の人物を父とする認知調停を起こすことなどできません。しかし、前夫宛に質問状を郵送し(私から通訳者を介して郵送)、無事に戻ってきた返書を証拠提出したり、その他パートナーの入国資料等、生活を共にしていたことを示す資料も提出するなどして、調停が行われることとなりました。家庭裁判所にも何度か掛け合いました。

勿論、パートナーは認知を希望していましたので、調停の当事者間に争いはなく、認知調停でDNA鑑定が行われることになりました。鑑定の結果、親子関係が証明され、親子関係を認定する認知調停が成立しました。

そうして、裁判所の調書を踏まえて、無事に戸籍の父の欄が訂正されました。

戸籍の実務に関する文献等色々と調査しましたが、前例もなく(文献上は見つからず)、ほんとうに手探り状態でした。DNA鑑定が運用されている時代だったこと、前夫の住所が判明したこと、現地で裁判が成立していたことなど幸運も重なり、順調に解決に至りました。何とかしたいと思い、私も必死でしたが、とても思い出深い事例です。

  • つづく…

国際離婚や国際相続など、国際家族が直面する法律トラブルは結構複雑ですので、今後もお役立ち情報をご紹介できればと思っております。次回は、「適用される法律はどの国の法律?」という、いわゆる準拠法についてご説明する予定です。


 

[1] 公益社団法人家庭問題情報センター(Family Problems Information Center:FPIC)の家庭問題情報誌「ふぁみりお」より。 http://www1.odn.ne.jp/fpic/familio/familio040.html 「ふぁみりお」に掲載されている「海外トピックス」も参考になります。 http://www1.odn.ne.jp/fpic/familio_1.htm

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